非常に大きな契約をお預りしたと思ったら、クーリングオフ期間内にクライアントの気が変わり申込みを撤回されました。手数料を直ちに返金しなければなりません。しかし、その手数料をすでに別の用途に投じてしまった事態を想像してください。
勤め先の保険会社が突然一社専属制度を廃止し、独立エージェントとのみの契約にすると発表したところを想像してください。
政府規制当局が保険募集人の報酬受け取り方法は違法であると判断し、これまで慎重に築き上げたキャリアと収入が危険にさらされているところを想像してください。
安定した市場で特定の保険商品を販売する収益性の高いビジネスを構築していたのに、保険会社がその商品の販売を停止し、代替え商品がない状態を想像してください。
事業に予想以上に多額を投資し、多数のスタッフを雇用したのに、主要なクライアントを一社ばかりでなく二社も三社も失ってしまい、事業を直ちに縮小し再構築しなければならない事態を想像してください。
こうした事態に対して備えはできていますか。準備してありますか。
皆さんがこの仕事を続ける上で、上記の事態のどれかが起こるかもしれません。保険および金融サービス業界では予測不能な事態が突然起こり、大きな決断を余儀なくされることがあります。
このような事態が起こりうると、なぜ私が断言できるかと疑問に思うかもしれません。私は42年間近くこの仕事をしてきて、実際に経験したからです。それでも私はこの業界で生き延ましたし、現在も健在です。今まで誰からも聞いたことのないコンセプトを皆さんにお伝えします。
皆さんの専門家としての仕事を混乱に陥れかねないこうした事態は、実は私達がクライアントに備えるようにと助言している事態です。
今から2~3年前、私は保険と金融サービス企業の幹部役員が集まる会議に出席する機会がありました。エージェントや現場の管理職は一人もおらず、企業幹部役員つまりCEO、最高総務責任者、最高マーケティング責任者、保険数理人、チーフ・アンダーライター、医長などが出席していました。
会議の休憩中、私は参加者の数人とテーブルに座っていたのですが、「これ以上混乱についてスピーチを聞いたら、叫んでしまいそう」とつぶやいた女性がいました。
同じテーブルにいた人達も私もつい微笑んでしまいました。というのはこの会議の主要テーマが混乱についてだったからです。混乱は大抵の場合、技術革新や技術と人工知能がもたらしたサービスという形で起こります。3,40年前に時計を戻し、ロボットが最初に導入されたとき製造業で起きた混乱を思い出せますか。もし思い出せたら、組立ラインで働く工場労働者らに起きた深刻な事態を想像できるでしょう。彼らは産業ロボットの導入を予測していたでしょうか。予想していなかったと思います。混乱は新たな方向から現れ、予期しなかった形の競争になります。インターネットは商品価格と機能に透明性をもたらした面で最高のプラットフォームです。会場の皆さんも何かを購入される際、まずはネットで価格を比較されるでしょう。
会議の休憩中に幹部役員が混乱についてつぶやいたのをきっかけに私は考え始めました。混乱を別の言い方で表現すると「移行」です。移行は我々プロのアドバイザーの専門分野です。1分でよいので考えてみてください。我々は保険に加入する重要性をクライアントとご家族に助言し、適切な種類の保険に加入するよう勧めています。どうしてですか。我々が保険の必要性を理解しており、クライアントもそれを知るべきだと考えるからです。「移行」を避けられる人はいません。死は不可避であり最終的な移行です。深刻な病気に罹患することもほぼ避けようがありません。いつか障がいを抱える可能性も高いです。失業や経済的な困難、家族や友人、同僚の悲劇。こういったトラウマや大惨事は誰の人生にも起こり得る事態です。
保険とファイナンシャル・プランニングは、我々がクライアントと彼らの未来を展望し、プランを作成し、クライアントが直面するリスクの一端を担保するツールです。大人が子どもと一緒に防災計画を立てるように、我々はクライアントが予測不能の事態に備えるのを手伝います。建物内で火災が起きたら所定の非常口から脱出し、特定の場所で集合するようにあらかじめ決めておくのと同じです。
私は経営者のクライアントに会社を生きものとして扱うよう助言します。人々が生き延びれば会社も生き延びます。会社も家族と同じように移行します。
実際、多くの経営者は従業員や同僚のことを家族同様に考えています。企業には成長と拡大、損失と縮小、キーパーソンの退職や死亡、共同株主やパートナーの追加や変更がつきものです。事業は家族と同様に危機に直面します。また事業は家族と同様に継続すれば、やがて遺産が残ります。蓄積し、構築した事業資産が次世代に伝わります。
好むと好まざるとにかかわらず、我々ひとり一人が事業であり小さな会社の経営者です。皆さんが専門家としてこの仕事を続ける目標をお持ちでしたら、あらゆる環境下で生き延びて繁栄する事業の特徴を議論してください。次の数分間で、予測不能の事態に備えるためプロのアドバイザー全員が実践すべき4つの重要なコンセプトを紹介します。
1. 皆さん自身がアドバイスを実践する
皆さんは仕事でクライアントにアドバイスをしていますが、ご自分はそれを実践していますか。ご自身のファイナンシャル・プランを作成し、そのプランに従ってください。遺産相続計画を作成し、遺言もしくは信託を文書化してください。適切な金額の適切な種類の保険に加入してください。あなたが病気やけが、死亡したらどうなるかをご家族に伝えてください。万が一最悪の事態が発生しても、残された家族が生活の心配をしなくてすむようにプランを作成してください。
2. 現在の事業計画書を作成する
皆さんが個人事業者だろうと大企業の一員だろうと関係がありません。大人数の従業員を雇う経営者なのか、それとも備品を注文したりクライアントのアポイントを取る担当者なのかも関係がありません。計画書を作成してください。どこで事業を行い、誰と一緒に仕事をしていますか。あなたはどんなサポートをしていますか。あなたはジェネラリスト、それともスペシャリストですか。ご自分の進歩と成果をどのように測定していますか。どんなリソースを入手、作成する必要がありますか。今、どの方向に向かっているのかを認識していますか。認識していれば、5年後に振り返り「あの時はっきりと方向が定まっていたから、現在の自分がいる」と胸を張って言えるはずです。
3. 年に一度SWOT分析を実施する
事業には強み、弱み、機会、脅威(SWOT=Strength, Weakness, Opportunity, Threat)があります。勇気を出してご自分のビジネスを分析し、SWOTを特定してください。どんなことが特に得意ですか。クライアントはあなたのビジネスのどんなところが最高だと褒めてくださいますか。事業で改善すべき点はどこですか。強化するために何ができますか。新たな機会はどこにありますか。最初に市場に参入した企業は競争上の優位性を享受でき、一般に後続企業よりも大きな利益が得られます。最後に潜在的な脅威が何であるかを知ってください。脅威が現実になる確率を計算し、深刻な脅威の項目ごとに緊急時の対応策を作成してください。もしもの時に何をすべきかを知っていたら、夜に安心して眠れるようになりますし、目の前のビジネスに集中できます。
4. 事業の財政規律を確立する
ご自分の手数料収入は個人収入ではなく事業収入として扱ってください。会社の損益計算書の一番上に手数料収入が記載されていなければなりません。現金準備金を積み立てて事業経費が充分に足りているか確認したのちに、ご自分に給与を支払ってください。事業経費が不足している場合は資金を回収する努力をしてください!また、ご自分に投資してこそ将来にコミットしていると言えます。事業に投資し、てこ入れして高い目標を掲げ、事業が成長する過程をお楽しみください。毎日、1日中、野いちごを集めてばかり(収穫)ではなく種まきの時間をとってください。トップが計画に時間をかける事業は成功するからです。ファイナンシャルの専門家は慎重に財務管理をして、常識的なビジネス慣行を実践することでクライアントや見込客に自信を説得できます。また仕事仲間や会社、地域への良い振る舞いを模範として示すこともできます。専門のアドバイザリー業務では、状況の変化に対応しなければなりません。
私は専門家としてのキャリアで、事業の大きな変更を5回経験しました。そして適時必要になったスキルを新たに習得し、人員配置の方法を改め、異なる収益モデルを身につけてきました。最終的に我々は事業を売却するか経営者から勇退する可能性があります。その際に何を残さねばなりませんか。メンターしたチームにクライアントを引き継げますか。それともあなたのクライアントは孤児契約扱いされますか、クライアントが全く知らない、アドバイスも信用できないアドバイザーに預けられるのを見過ごすのですか。あなたの事業は収益性があり売却できますか。ご自分の契約内容は、保有ビジネスの移管を許可していますか。ファイナンシャルの専門家として30年、40年、もしくは50年投資しているなら、クライアントが何を望んで専門的な投資をしているのか知っているはずです。今月、今年のセールス目標だけでなく、長期的に事業を見る必要があります。皆さんは何をお望みですか。単なるライフスタイル・ビジネスを営んでおられるのですか。それとも人から見習われ、目標にされるような地に足のついたビジネスを目指していますか。
移行プランは将来を見越して考えるために重要です。セールス・パーソンの考え方から事業経営者の考え方に移行することが、変化する状況に適応できる力を築く第一歩です。これがTOTアドバイザーのほぼ全員が理解している秘訣です。今日この会場におられる皆さんへ私からのお願いです。経験豊かなセールス・パーソンであることは素晴らしいですし、実り多い人生を送ることができます。しかし真に豊かで持続可能な事業をしたいなら、セールス・テクニックの範疇を超えて移行に備えた事業を構築し、困難な事態が起きても継続できるように準備してください。

Mark J. Hanna, CLU, ChFC は3回のコート・オブ・ザ・テーブルと20回のトップ・オブ・ザ・テーブルを含め、31年間会員。2017年度のMDRT会長であり、2007年度にはトップ・オブ・ザ・テーブル会長を務めた。MDRT FoundationのRoyal Order Excalibur Knightの称号を持ち、Inner Circle Societyのメンバー。