
2000年に1テラバイトのデータを保存するためにかかるコストは約$17,000でしたが、今は$3で保存できます。これは指数的環境の関数です。指数曲線について考えるとき人は常にそれがどのように上昇するかを考えますが、あらゆる能力や機能のコストは、その逆で、下がります。どんどん安くなります。だからこそ『モノ』であるインターネットが普及しました。データの蓄積、保存、処理は安くなる一方です。
現在、約500億台のデバイスがインターネットに接続されています。これが「ビッグデータ」という用語の由来です。ビッグデータ空間における初期の勝者は予測保守という分野でした。例えばマシンに熱と振動を検知するセンサーを設置して、そのマシンがいつ壊れるか予測できることに気づきました。これによって投資収益率が上昇しました。
この技術はまず製造セクターで発達しました。その同じ技術が鉱業セクターでも発達して、今ではドリルビットにセンサーが付いています。しかし、データは小売業をはじめ他の無数の業界にも影響を及ぼしています。
「アマゾン効果」とは、アマゾンのようなプラットフォームが提供する利便性と納品までの迅速性に私たち全員が慣れてしまったことを意味します。現在、他の業界でも同レベルのサービスが期待されています。金融サービス業にも当然影響は及んでいます。一般にFinTech、金融技術と呼ばれるものは、より直感的なユーザーインターフェースで駆動されています。ロビンフッド、ベターメント、ウェルスフロントなどの企業は特に優れた例ですが、テクノロジーを活用し、金融業界で消費者に新しいオプションを提供している企業は他にもたくさんあります。
要するに、私たちはこの指数的環境にいるということです。近年最もよく耳にする分野の一つが、機械学習または人工知能(AI)です。これは、小売りプラットフォームで活用されており、何かを購入すると「もしかしてこれなんかも好きじゃないですか」と聞いてきます。つまり、機械が皆さんの行為から、皆さんの好みを学習しているのです。
他にどんな分野で人工知能の可能性が使われているでしょうか。ひとつは画像認識です。例えば製造業で機械が欠陥を探す高度なアプリケーションが利用されていますね。
では機械学習の最大の要素は何でしょう。それはデータです。テスラには20億マイル相当のデータがあり、それがテスラの強みです。ウーバーとリフトも多くのデータを蓄積しています。
人工知能の活用においてなぜデータの蓄積が強みになるのかをご理解いただくために、学習プロセスについてお話しましょう。テスラが2015年にオートパイロット機能を導入したとき、市中にはハードウエアを装備した数万台のテスラが既に走っていました。当日の晩には、もうオートパイロット機能を実際に使って家路につく人たちがいました。ある男性もその機能を使って帰宅しました。帰路には非常に急角度のヘアピンカーブがありました。初日の帰宅中、その男性は「本当に自動運転できるかやってみよう」と思ってハンドルから手を離しました。すると、車は急ブレーキをかけ、「ハンドルを握って車両を制御しなさい」という警告灯が点灯しました。つまり、オートパイロットとしては失敗しました。しかし、翌日から彼は何度も同じことを繰り返しました。そして、2週間経過したころ、彼の車はその道の走行方法を学びました。そのコーナーの曲がり方を学んだのは彼の車だけではありません。すべてのテスラ車がその曲がり方を学んだのです。テスラではネットワーク上のユーザーすべてのデータがクラウドにアップロードされます。すべてのデータをアップロードして問題を修正し、ネットワーク全体にそれらの修正を展開できるため、クラウドはイネイブリング・テクノロジー(実現技術)として機能します。
これは恐るべき力です。だから、学習が加速します。そしてそれ故にネットワーク上にどれだけ多くの人がいるかが非常に重要になってきます。多くの人がいればいるほど、より速く学べるからです。彼らは「フリート(船団)ラーニング」と呼んでいます。このフリート・ラーニングが進歩をさらに加速させるのです。
イノベーションには漸進型イノベーションと破壊型イノベーションの2種類があります。漸進型イノベーションは非常に強力で私たちの世界を変えていますが、破壊型イノベーションは異なります。破壊型イノベーションは、既存のビジネスモデルを無効化します。だから経営者にとって怖いのです。破壊型イノベーションは予測できないのでしょうか。
「誰かが来て自分のランチを横取りする」といった考え方をしがちですが、それは間違ったアプローチです。私たちは「誰の」ランチを横取りできるかを考えるべきです。こう考えている間は攻撃的でいられます。他の企業が苦境にあえぎ、失敗する可能性があるとき、そして一部の企業は実際失敗するであろうときこそ、その場所を奪い取るチャンスが生まれます。
アップルは音楽ビジネスを混乱させました。電話ビジネスも混乱させました。グーグルもアンドロイドのオペレーティング・システムで同じことをしました。つまり、破壊型イノベーションは、私が「隣接市場」と呼ぶものから生まれます。小さな場所に重複するさまざまな業界が存在する場合、破壊型イノベーションはそれらの重複するものの中からかなりの頻度で発生します。隣接市場とは何かを理解する最も簡単な方法は、最大のサプライヤーは誰か、彼らは他に誰に販売しているか、と考えることです。あるいは、サプライチェーンについて考えて、自分にとって最大の顧客は誰か、彼らは他の誰から購入するか、と自問してみてください。
あるいは、サプライチェーンについて考えて、自分にとって最大の顧客は誰か、彼らはどこから購入するか、と自問してみてください。20分で、12の異なる隣接市場のリストを考え付くでしょう。そして 次に、隣接市場の中でうまくいっていない市場を特定し、そのビジネスを取り込むように自分の事業を拡大できるか、自問してください。
常に攻撃を考えてください。どうすれば皆さんの顧客の生活でより大きな役割を果たすことができますか。LinkedInは採用ビジネスを混乱させました。アマゾンは、Kindle E-readerで出版事業を混乱させました。これらは隣接市場です。そして今、アップルもグーグルもテスラも自動車産業に参入しています。
どうすれば拡張できるかを常に考えてください。どんな企業や業界が周辺にいるか、何が売れ、何が機能しているか、業界の異端児はいないかに注目してください。破壊型イノベーションが最初にアプローチするのは最も収益性の低い市場セグメントだという傾向があります。収益が低い分野なのでその顧客へのサービスは頭痛の種です。多くの企業はこの分野の顧客を回避しています。
どの業界も最も収益性の高い市場セグメントに注目します。お金が稼げるからです。誰が置き去りにされますか。一番下の人々です。するとどうなりますか。彼らは何を求めていますか。よりシンプルで安価なソリューションを求めます。破壊型イノベーションの源はここです。その市場セグメントに対応しているのは誰ですか。
これは皆さんのビジネスを戦略的に考えるための枠組みです。上をみて、下を見て、次に左右も見てください。
見上げてください。そこにあるプレミア製品-これこそお金を稼ぐ場所です。破壊型イノベーションの場合、失敗に備えた予算が必要なのでその利益が必要です。プレミア製品を最も収益性の高い市場セグメントで販売することは優れた戦略です。
しかし同時に下を見てください。なぜならそこが破壊型イノベーションの源だからです。よりシンプルで安価なソリューションを求めているのは、一番下の人々です。そこのイノベーションが業界全体に行き渡り、浸透していきます。
次に左右も見てください。左右は皆さんの隣接市場です。つまり、新たに収益を得る機会です。「誰が私のランチを横取りするのか」ではなく、「誰のランチを横取りできるか」と考えるのです。今は変化の時です。
破壊型イノベーションの狙いは、多くの人々を怖がらせることです。人々は防御姿勢に入り、現在持っているものを守ろうとします。しかし、肝心なのは皆さんには攻撃の継続方法、ビジネスの構築方法、収益の拡大方法をより戦略的に考えるための枠組みがあることです。たとえ皆さんが現在個人事業主であっても、ビジネスにおける皆さんの機会と皆さんが果たす役割をより大きく考えるときです。今は私たちの変化する世界に目を向け、どうすれば顧客の生活でより大きな役割を果たすことができるかを自分に問いかけるときです。

Patrick Schwerdtfegerはビッグ・データ、人工知能、フィンテックおよびブロックチェーンを含むテクノロジーのトレンドを専門とするビジネスの未来学者です。“Anarchy, Inc.: Profiting in a Decentralized World with Artificial Intelligence and Blockchain(試訳: 人工知能とブロックチェーンのある分散型の世界で収益を上げる)”を含め4冊の著者であり、パーデュ大学、スタンフォード大学を含め多くの学術機関で講演をしました。またTrend Mastery Inc.の創業者であり、Strategic Business Insightsビデオ・ブログのホストを務めています。Schwerdtfegerは世界各国でビジネスのトレンド、テクノロジー、デジタル・マーケティングについて講演をしてきました。