
クライアントのために他の専門家と協働すべき理由は単純明快ですが「私達は皆が同じ楽譜の同じ箇所を演奏しているかを確認するオーケストラの指揮者です」というエレガントな表現はいかがでしょう。カナダの5年間MDRT会員のElke Rubach, LL.M, CLUによると「そんなことはめったにないからです」とのことです。
数ある事例の中で、優れた節税プランを備えていたのにクライアントが遺書に明記していなかったために、万が一のときにそのプランが実行されないケースを見てきました。強い意志があったとしてもそれだけでは節税効果はありません。富裕層のお客さまは多忙のためお金周りの整理ができず、総合的なガイダンスを必要としています。つまり、ひとりのクライアントを担当する弁護士や税理士など他のアドバイザーについても知ることが、関わる全ての人にメリットをもたらす相互関係を築くことにつながります。
では、協働すべきCOI(Centers of Influence、後援者)の1人が同じ曲を演奏せず、皆さんに紹介を返さない場合はどうすれば良いでしょうか。まずはこのような状況が起こり得る原因について考えてみましょう。
紹介を受けたいと思っていることを相手は知っていますか?
元国際M&A弁護士のRubachは、家族へのサポートを強化したいと思いこの仕事を始めましたが、彼女があまりにも成功しているためにこれ以上紹介を求めていないと思われている可能性がありました。新規顧客を無制限に増やす必要はありませんし、それを望んでいるわけでもありませんが、彼女は成長を求めており、この想いをCOIに明確に伝えるだけで大きく前進しました。対話を始めるには「あなたの進め方やプランはとてもいいですね。私のお客さまにもうまくはまると思うのですが今まで紹介をいただいたことはありませんね。なぜですか?」あるいは「これまで何人かご紹介しましたが、この5年間私は紹介していただいていません。何か理由があるのですか?」と切り出します。
紹介に興味があることを知っているのであれば、紹介しない別の理由があるのでしょうか。
「信用されていなかったり、やり方が気に入らなかったり、私の仕事内容を知らないといった理由でしょうか?」とRubachは尋ねます。確かに仕事内容を知らない可能性もあります。自分のクライアントを紹介する方法が分からないと言われたこともあり、そのときは相手に自分のプロセスを一通り説明し、アイディアを提供して紹介するよう指導しました。「皆さん自分のお客さまに誇りを持っていますので、どういう扱いをされるのか分からないと紹介するのを躊躇するのです」
紹介を行わないという人もいます。
そのような場合は、優秀な税理士や弁護士だから問題ないのか、それとも自分が利用されていると感じるので他の専門家と仕事をしたいのか、判断するのは皆さんです。また、紹介することに興味がなく強制されていると感じる方からの月並みな紹介であれば、むしろない方がましです。紹介してくれた方にRubachは感謝の気持ちを表す贈り物とお礼のカードを送っています。
もし互恵性に欠ける関係があるのか分からない場合は、彼女がコーチの勧めで行った方法を試してください。皆さんが紹介を提供しているCOIをリスト化し、よく紹介を受ける方、たまに紹介を受ける方、紹介を受けたことがない方を特定します。紹介者数とそこで得た収益を数値化することも検討してください。そして「たまに紹介を受ける方」と「紹介を受けたことがない方」にリストアップされた方達と話をして理由を聞きます。Rubachの場合は「1人でテニスをしていても楽しくありません」と言います。
では紹介を促進するには他の専門家との関係をどのように育めば良いでしょうか。
- 自分の仕事を定義する。自分が何をする人で、誰と一緒に仕事をするのがベストなのかが自分で分からなければ、他の専門家も分からないはずです。この仕事を始めて間もない場合はなおさらです。
- 自分のプロセスを明確に伝える。Rubachは他のアドバイザーと会って自分のプロセスを説明する重要性をクライアントに伝えています。そうすることで一緒に仕事をするときの心構えができます。彼女は自分の仕事を理解し、信用してくれる人と協働することを好んでいますが、紹介するためには他の専門家のプロセス、方針、請求方法などを知っておく必要があることを必ず説明します。
- 四半期ごとに専門家同士で電話をして関係性を確認する。「そういえば、どなたも紹介をいただいていませんが、何かお手伝いできることはありませんか?」と伝えます。「その後は黙って相手の話を聞きます。たいていの場合、相手は要望に応えてくれます」
- ニュアンスを理解する。例えばRubachはクライアントの弁護士に連絡を取る前にクライアントから同意書をもらい、弁護士がRubachとの時間分を請求した場合に備えています。(弁護士と良好な関係を築いてからは彼女が質問をしてもその時間分は請求されなくなりました)これは他の専門家が持つ保険に関する盲点に気付くことでもあります。「この方には保険は役に立たないかもしれませんが、この方のご家族にとってはどうだろうと考えたことはありますか?」Rubachは将来の未知の事態を考えていない会計士に問い掛けます。「これは今皆さんが整備している強固な構造ですが、クライアントに万が一のことがあった場合に、どのように展開していくのですか?」