
お客さまの前で考えながら話すのはよくありません。事前にセリフをリハーサルして伝えたい言葉を暗記する、または話の流れを決めた上で話を進めてください。質問と好奇心が大切な会話へ導きます。それはお客さまの潜在意識と対話することと言えます。
多くの方は「ノー」が「イエス」の対極にあると考えますが、そうではありません。対極にあるのは「たぶん」です。人の脳の意思決定をする部分に語りかけることができれば、意志決定までの速度を上げることができます。つまり取引の速度をアップし、規模を大きくできます。脳の潜在意識は「イエス」か「ノー」の判断をするので、意思決定プロセスに強い力を持っています。「たぶん」は潜在意識(心の中の小さな声)には存在しません。潜在意識は一日中自動的に稼働しています。意識せずに呼吸しているのと同じです。全ての決断をひとつひとつ考えていたら、朝起きて15分もしないうちに疲れ果ててしまうでしょう。人の心の声に語りかけることを学べば、あらゆる会話で有利になります。
心の声に語りかける
私はお客さまに話をするとき「あなたに合うか分かりませんが」と前置きをしてからアイディアを提示します。すると顧客の心の声は2つの反応を起こします。まず「それならば私が判断する」と心の声は意思決定する責任を負います。次に好奇心が刺激され「一体何だろう」と興味を持つようになります。
大きな力を持つ3文字の単語があります。「but(しかし)」という単語は、その前に言われたことを否定するものでしょうか。「しかし」は次に起きることに焦点を移したり、他に目を向けさせる作用もあります。例えば「あなたに合うかどうか分かりませんが、同じ状況にいる多くの方は~することで大成功しています」「あなたに合うか分かりませんが、ちょうど良さそうな話があります」というふうに前置きをします。こうすることで、言いたいことを押し付けるのではなく、話を聞きたくなるような展開になります。
心の声に語りかけるもう一つの方法は、人には「自分はオープン・マインドだ」と見られたい心理があり、それを利用することです。もちろん全ての人が寛容なわけではありませんが、拒否を避ける会話のきっかけとして使えます。まず「あなたはどれだけ寛容になれますか」と問いかけます。これで相手に心構えをさせ、ディスカッションのきっかけを作ります。「長期計画をサポートするためにこの期間中投資を増やすことにどの程度寛容(オープン・マインド)になれますか」「現在の生活の変化を踏まえ、保障の必要性を見直すことにどれだけ寛容になれますか」といった具合です。多くの場合、このような議論を始めるのは顧客の反応を見てからになります。「あなたに合うか分かりませんが……」「どれだけオープン・マインドですか」というフレーズや、これらを組み合わせて始まる質問を一部のお客さまにテキスト・メッセージで送ってみてください。ビジネス・チャンスが生まれるのは間違いありません。
潜在意識に語りかけるもう一つの原則は、人のモチベーションを理解することです。人が行動する理由を知ることで影響力が発揮できます。人が行動する理由は「達成したいことがある」「恐れていることがある」「自分のためにすることで心が躍るようなことがある」この3つだけです。皆さんの仕事は感情を理解し、この3つをうまく使いこなして人を動かすことです。
人は何かを決断するとき、まず頭の中で仮説を立てます。皆さんは「そうしている自分が想像できない」と思ったことはありませんか。想像できなければ、それを選ぶ可能性は限りなくゼロに近くなります。ですから、人に何かを勧める前に頭の中で一度体験してもらうことです。そうすると選択してもらえる可能性が大幅に高くなります。
ストーリータイム
われわれの記憶は実際に自分で経験したことか、人から聞いた話のどちらかによって作られます。頭の中で仮説を立てる際、自分の記憶に照らし合わせます。子どもの頃「むかしむかし」という言葉を聞くと、その後に物語が続くことを知っていました。この言葉の大人版は「想像してみてください」です。この2つの言葉は、人が行動する3つの理由を想像させるきっかけとなります。
現実に当てはめてみましょう。「全ての財務管理がきちんとできていると安心して眠りにつける喜びを想像してみてください」「これを先延ばしにして何かアクシデントが起きたときに保障が無いことを想像してみてください」あるいは「時間をかけて財務管理を行うことで、安心して大切な人と時間を過ごせるようになると想像してみてください」多くの人はなかなか現状を変えようとしないので、現状との対比が大きければ大きいほど、行動する可能性が高くなります。
もうひとつの基本は、人は羊のように群れることを好み、数が多いほど安心するという心理があります。義母のお勧めよりも、見知らぬ37人の評価を信じるのはそのためです。この心理を利用して「こうしなさい」と命令されたように感じさせずに相手を誘導するには「ほとんどの方がこうしています」というフレーズを使います。すると相手の心の声が発動し「そうか、私も一般人だから同じようにしよう。もう決心したので心変わりしない」となります。
クロージング
顧客へのプレゼンテーションを終えると皆さんは「質問はありませんか」と締めくくります。これでは質問があることを見越していることになります。しかしプレゼンテーションがうまくいったのなら、質問が無い方がいいはずです。代わりに「私に聞いてみたいことはありますか」と声をかけてください。もし質問が無ければ、顧客は必要な情報を全て手にして、意思決定をする準備ができたことになります。しかし決断を迫る必要はありません。次のステップを説明し、上手にリードするのです。皆さんにはその責任があります。専門家としてあなたを選んでくれたお客さまを失望させてはいけません。お客さまは意思決定をするのに情報を求めているのではなく、皆さんの助けを必要としているのです。
Phil Jonesは影響力と説得力のエキスパートで、著書にはExactly What to Say: The Magic Words for Influence and Impactがあります。Contact: philjones.com