目を閉じて想像してください。全てのスタッフが疑うことなく同じ価値観を共有し、対人コミュニケーションのガイドラインに同意し、良好な人間関係を保ちながら互いに説明責任を果たし、プロとして刺激を受けながら精神的に支えてもらっていると感じるオフィスとはどんなものでしょう。
さあ、目を開けてください。それは皆さんのオフィスの光景でしょうか。
マサチューセッツ工科大学にあるスローン・スクール・オブ・ビジネスの最新の研究によれば、職場の雰囲気が悪いと金銭面での不満より10倍も離職する可能性が高く、中でも従業員に対するリスペクトのなさが職場文化に最も悪い印象を与えていることが分かりました。
一方で一部のMDRT会員は理想的に見える職場環境が考え抜かれた行動の結果であることを知っています。ここで紹介するステップと手順は素晴らしい成功をもたらしただけでなく、自分のビジネスにおいて同様の一体感、生産性、積極性を生み出したい人が誰でもまねすることのできるものです。
文書にする
Joffrey A. Smith, MBA, CFPが取り組みを始めたのは2020年にMBA取得のためコーネル大学に在籍していたときでした。教授はプログラムの各チームに社会契約という概念を紹介し、現在7年目のMDRT会員であるSmithはこの考え方が6人から成るチームの仲間意識、説明責任、建設的議論に非常に効果的であることに感激しました。
「チーム・ミーティングに遅刻したりプロジェクトに貢献しなかったりした場合『ダメじゃないか』と個人攻撃するのではなく、社会契約を指し示して『私たち全員が同意した契約通りに説明責任を果たし私たちに○○を提供する必要があります』と諭すことができます。すると相手は反論しようとせず『あなたの言う通りだ。私が悪かった。同じ過ちは犯さないで改善に努める』と謝ります」とSmithは言います。
SmithのチームはMBAプログラムの初期段階で契約の内容を数時間かけて決め、最終的に全員が了承しサインしました(彼のチームはプログラムの中で最も効果を上げたチームの一つで親交は今も続いています)。Smithは包括的なファイナンシャル・プランニングを若手の士業の方々、退職前の人、退職者350人に提供しています。スタッフにはチーフ・コンプライアンス・オフィサー、コンプライアンス・コーディネーター、お客さまサービス担当を配置し、プログラムで学んだことを自社に導入しました。
問いかけるべきことは次のようなものです。
- チームメンバーは心構え、適時性、出席率、仕事の成果物の質に対し、互いにどのようなことを期待していますか。
- ミーティングをいつ、どのように(対面、電話会議、オンライン会議)開きますか。
- プロジェクトの役割分担をどのように行い、どのようにプロジェクトを管理しますか。
- 個人の強みをどのように生かし、それぞれの学習目標をどうサポートしますか。
- 意見の相違にどう対処し、双方にいつ、どのようにフィードバックしますか。
これはほんの一部に過ぎません。Smithはスタッフ・ミーティング、スタッフの参加とコミュニケーション、問題解決と対立の管理といったセクションに分けた契約を締結することを勧めます。社会契約は全て適切な問いかけに対する答えを明確に定義し、対人行動や対立解決などの青写真を提供しなければなりません。契約書は経験と共に更新される生きた文書であり、一人ひとりの署名を入れて全員がコピーを保管します。
「たとえ明言されていなくてもどのチームにも規範はあります」とSmithは述べ、就業規則で認められているからと事前通告なしに休暇をとる同僚に閉口している医師など、一部のお客さまには社会契約の活用を勧めていると述べました。「優れたリーダーは肯定的なものであれ否定的なものであれ、既存の規範を全て明らかにするためセッション(話し合い)を行うべきです。社会契約を確立することで前向きな行動を強化し、誰もが課題を克服し、スタッフに自己効力感と安心感を与えられます」
たとえ明言されていなくてもどのチームにも規範はあります。優れたリーダーは肯定的なものであれ否定的なものであれ、既存の規範を全て明らかにするためセッション(話し合い)を行うべきです。
—Joffrey Smith
もちろん違反があれば社会契約(Smithはお客さまの目に触れる場所には掲示しないようにしています)を直ちに執行することが正しい運用には不可欠であり、説明責任の欠如は不満の火種になりかねません。確執を生んだり個人攻撃を受けたりする恐れがなければ、チーム・ミーティングで敬意を持って取り上げ課題を話し合うことが有益であることを誰もが理解するでしょう。Smithのオフィスではミーティングに遅刻することは他の人の時間を軽視しているということで、スタッフにランチをおごらなければなりません。そのため現在は全員が5分前に集合するようになりました。
「社会契約の下では私を含め全ての人が説明責任を持つので機能的なチーム、高い生産性、良い人間関係という結果を生み出せます」
迅速なフィードバック
明確に定義されたチーム・アプローチはHarpreet Singh Atwal, Dip FA, BSc (Hons)にとっても非常に効果的でした。Gino Wickmanの著書「トラクション」で強力な企業文化には強力なチームバリューが必要であるという一節を読み、13年間MDRT会員のAtwalは誰もがすぐに同意する6つの価値観を作ることで構造と開放性の両方を提供できることに気付きました。中でも最も変革をもたらしたのは、率直であることの重要性とフィードバックの授受を恐れないことです。
以前はスタッフに関する問題を取り上げることをためらっていましたが(間違いを指摘するのに3週間もかかっていました)、今ではどんなことでも1~2日で対処できるようになりました。
「フィードバックをして行動を促すのに必要な時間が明らかに短くなり、問題を何週間も先延ばしすることがなくなりました」と6人のスタッフを抱え、150世帯の資産管理と保険を扱うAtwalは述べました。
その他の価値観には正直さ、決断力、チームワークといった幅広い考え方が含まれます。Atwalはそれぞれの価値観を半年前に文書で説明し、2カ月後スタッフに見直しと検証をしてもらいましたが、彼らはすでにこの新しいアプローチを活用する効果的な方法をいくつか編み出していました。
率直に話すという価値観を実践することはそのひとつです。あるスタッフが同僚との関係に関する問題について相談してきたとき、コアバリューについて思い起こさせ同僚に直接話すよう促しました(Smithも同じような経験をしました)。チーム・ミーティングのときには業務の改善に役立つコアバリューを実践した仲間を褒めるよう勧めた結果、スタッフ間のコミュニケーションが活発になり、成長について発言するときでも「私」ではなく「私たち」と表現するようになりました。また、Atwalは1対1のミーティングで特にスタッフが受け入れ実践している価値観を取り上げ、同時に改善すべき点にも言及しています。
さらに最近会社の価値観を求人広告に追加したところ、応募者全員から「御社のコアバリューに共感しました」と言われました。これは価値観が新規採用者の信頼を得るツール、また人材を吟味する手段になることを示しています。
「チームには、誰であろうと全ての価値観に合致しなければここで働いてもらうわけにはいかないと話しています」とAtwalは語りました。
今のところ価値観を誰もが見えるように壁に掲示してはいませんが、従業員は皆サインの入ったコピーを持っており、毎月読んで思い起こし、事業の現在のビジョンと一致しているか3カ月ごとに見直しています。
ドリーム・チーム
Shane E. Westhoelter, AEP, CLUはやる気を起こさせるために違うタイプの仕掛けを用意しています。14年間MDRT会員のWesthoelterのオフィスではスタッフ全員が雑誌の切り抜きや写真を用いたドリーム・ボードを作って毎年更新しています。目標を書くだけですぐ忘れてしまうのではなく仕事でもプライベートでも何を目指すのかを視覚的に思い起こせるようにしています。毎月1人か2人のスタッフが自分のボードに書いた事柄を写真と共にチームに説明します。同僚は目標への進捗に関心を寄せるので全員が目標に責任を持って集中します。
「スタッフがどんな人であり何を重視しているのか深く知れます。私たちリーダーから見ると従業員のモチベーションは給料だと思うかもしれませんが、家族や旅行やペットの写真を何枚も見れば余暇や家族旅行がモチベーションの源になっていることが分かり、彼らをより良く理解する助けになります」と1500世帯の包括的なファイナンシャル・プランニングとウエルス・マネジメントを扱い、顧客サービス担当や総務担当など21人のスタッフを抱えるWesthoelterは述べました。
Westhoelterのオフィスがドリーム・ボードを導入したのは20年前で、8年間MDRT会員のAprilyn Chavez Geissler, LACP, CCPも導入しました。この取り組みは新しい車を買う、料理教室に通う、トレーニングを続けるなど一人ひとりの目標追求を促すと同時に、互いの成果に投資することでチームを団結させます。例えば誰かがギターを弾けるようになりたいと言えば、ギターを持っているから教えてあげようと言う人が出てくると言います。
それだけではありません。スタッフの運動目標を知った4年ほど前にはオフィスに4台のトレッドミルを設置し、電話会議をしながら、あるいは休憩中に外出しなくても運動できるようにしました(現在は1台だけ残っています)。そのさらに数年前には瞑想、読書、音楽鑑賞、または単に仕事から少し離れて脳を休めるためのリラクセーション・ルームを作りました。中にはヨガチェアと大きな枕があり、15分単位で静かな時間を過ごせます。
「身体的にも精神的にも健康でいることに集中する環境が整えられ、私たちはそれをサポートする雰囲気作りに全力を注いでいます。皆が孤立して何の交流もなく仕事をするのではなく、家庭的で一つのチームのような環境を作り出しています」とWesthoelterは述べました。
オフィスに子どもたちが来るとこんなに静かではいられないとWesthoelterは笑います。子どもたちは放課後に来て親が仕事を片付けている間に宿題をし、熱はないけれどまだ登校できない子はリラクセーション・ルームで映画を見たりゲームをしたりします。
「会社に大した負担のない社員特典のようなもので、従業員はベビーシッターにお金を払ったり、子どもの世話のために休暇を使ったりする必要がないので感謝されています。私たちは全員が非常に家族志向であるし家族と共に働くビジネスをしているので、スタッフとも家族のようでありたいと思っています」と語りました。
異なる視点を受け入れる
もちろん、ある人にとっては太陽の光でも別の人にとっては暗い雲になり得ることを忘れてはなりません。Sofia Dumansky, MBA, LUTCFは同じビルにオフィスを構える20人のアドバイザーの間で、特定のやり方に対するさまざまな反応を見てきました。
13年間MDRT会員のDumanskyは、時折オフィスに子どもたちが来ることを楽しんでいる人もいれば、気が散ると嫌がる人もいると言います。例えばあるスタッフが自分の子どものためにオフィスにバスケットボールのリングを設置したときは、ボールのバウンドする音にクレームが来ました。
オフィスにペットがいることを嫌がるアドバイザーもいて、滅多にないことですが前任のマネージャーが辞める直前の2カ月間に実際に問題が起きました。彼女の愛犬のオーストラリアン・シェパードがカウンターにいて非常に目立っていたのです。
「人がカウンターに近づくと犬は尻尾を振って挨拶しますが、カウンターから出て来ることはありませんでした」とリモートで働く2人のアシスタントを抱え、約1000世帯のファイナンシャル・プランニング、生命保険、投資を取り扱うDumanskyは述べます。
「犬がいることを歓迎するアドバイザーもいて、おかげでアットホームな雰囲気になりました。個人的には犬が私のスペースに入ってこなければ、いてもいなくても全く気になりませんでした」
彼女はオフィスに子どもや犬を連れてくることの良しあしに関する方針を見たことがないので、今後どうなるかは予測できないと付け加えました。
言葉選びの知恵
予測不可能な状況はまさにVinny Dallo, ChFC, CLUが避けたがっていることであり、そのためにはもっと慎重に言葉を選び、同僚に対して自分の言動に責任を持つことが重要だと言います。
4年前、9年間MDRT会員のDalloは当時一緒に働いていたアドバイザーとマネージャーから態度が悪いと言われました。それを聞いてDalloは大学の同好会で学んだことを思い起こしました。彼は同好会の友人たちと互いに平等な立場で尊敬し合うこと、ミーティングでは誰が言いだしたかではなく今取り組むべき課題そのものに集中して議論することにしていました。
彼は職場でもこのやり方を続けようとしましたが、単に何をするべきか指示するだけで協働することを止めてしまっていたことに気付き、何かを変えなければならないと思いました。
「人は自分が尊重されていると感じたいものです。言葉遣いや人と接するときの態度は非常に重要です。私が成功したのは他の人の努力や能力のおかげなので、私は彼らにしっかり投資して敬意を持って接しなければなりません」と述べます。
スタッフとのやり取りに問題があるとか、何かを改善したいと思っているなら、自分から始めなければなりません。
—Vinny Dallo
彼は「べき」という言葉を使わないようにすることから始めました。何をするべきか指示する代わりに「私たちは目標に近づくために何ができるでしょうか?」と尋ねることにしています。また会話の主役は自分ではなく、お客さまとオフィスの機能であることを理解しています。
「重要なのはお客さまや職場が何を必要としていて、私たちがどのように一致団結して関わるかということです。私は自分が宇宙の中心でないことを思い出す必要があります」と述べました。
同様にミーティングで自分の態度が悪かったため、スタッフが緊張した面持ちで会議室を出て誰かに不満を吐き出し共感してもらいたいと感じる状況は二度と繰り返したくないと考えています。アドバイザーの仕事に就いて20年ですが、独立して間もなく1年になります。オフィスの仲間(パートタイムの採用したての事務アシスタント、パートタイムの広報アシスタント2人、投資が専門のサポート・アドバイザー)には彼が再び悪い態度を取ったら指摘してほしいと話しています。
彼は同じことを二度と起こさない約束をするとともにオープンかつ冷静に対処することを決意しており、問題を提起した人を特定して責めるのではなく課題について話し合うという同好会で学んだ教訓も守っています。その結果オフィスでは以前より仲間意識や冗談が増え、口論せずに意見の違いを表現できるようになり、不満や陰口ではなく中立的な雰囲気が生まれました。
特に、手本になるべき自分がどういう行動をとるか、オフィスにいる一人ひとりがどう反応するかが大きな影響力を持つとDalloは言います。
「文化は通常、末端の現場から生じるのではなく経営陣から始まります。アドバイザーやCEOとしての自分を見つめ直したいとか、スタッフとのやり取りに問題があるとか、何かを改善したいと思っているなら、自分から始めなければなりません」と語りました。
「それができるのは、あなただけです」
手短な報告会
プロジェクトのパフォーマンスやミーティングに長時間かけていると各人の貢献度についての議論や個人攻撃に話がそれてしまうことがありますが、Smithのオフィスは『10分報告会』でこの問題を回避しています。このミーティングでは一人ひとりがうまくいったこと、うまくいかなかったことを共有し、話の内容によってハッピーフェース(笑顔)やサッドフェース(悲しい顔)の絵文字を添えます。参加者は全員が共有し終わるまで口を挟めません。
その後、どのような教訓を共有したか、それに対してどのように行動するか、誰が責任を持って遂行するかを検討します。
スタッフに投資して成長を促す
Smithがオフィスを強化するもう一つの方法は全てのプロジェクトにリーダーとサブリーダーを任命することですが、その役割分担は皆さんが想像するようなものではありません。リーダーはタスクへの経験が浅い人に任せ、サブリーダーの方が知識豊富でリーダーの成長を助けることになっています。例えば事務手順を全て文書化する取り組みでは、それをやったことがないマネージャーがリーダーになり、サブリーダーが指導役になります。リーダーとサブリーダーの責任が明確に定義されて生まれた相互作用は、チームメンバーが新しいスキルを身に付けるのを助け、成功と説明責任のシステムを作り出しました。
「普段は関わりのない人たちが協力し合うようになります。その活躍を見て今までリーダーシップをとる機会がなかった人たちの中からリーダーを見つけることもできます」と語りました。
Contact
Harpreet Atwal harpreet@atwalwealth.co.uk
Vinny Dallo vinny.dallo@ceteraadvisors.com
Sofia Dumansky sdumansky@legatumfinancial.com
Joffrey Smith joff@joffreysmith.com
Shane Westhoelter shane@gfainvestments.com