ファクト・ファインディングというと財務情報を集めるだけの事務的なデータ収集のイメージがあります。このプロセスはアドバイザーの仕事の中でも主要な悩みごとの1つに挙げられることが多いですが、お客さまにアドバイザーを頼りになる味方であると確信させる瞬間にすることもできます。
「ファクト・ファインディングを正しく行えばお客さまは友人とコーヒーやランチに出掛けているような気分になるでしょう。質問リストを読み上げてチェック欄に印をつけるだけのプロセスではありません。ファクト・ファインディングはお客さまと繋がり、お客さまを知るための本当に素晴らしい機会です」と21年間MDRT会員のJennifer P. Mann, MBA, CFPは言います。
質問リスト
多くのアドバイザーは質問リストやチェックリストを事前に送って最初のアポイントメントの前に書いてもらい、面談を書類記入の場ではなくニーズやゴールを知るための有意義な機会にしています。ビジネス・パートナーであるJeannine Resteiner CitoliとWarren Stickneyは資産、負債、雇用、家族に関する基本的な情報と共に、現在の資産税対策、財務計画、過去の担当アドバイザーの全般的な財務知識などに対する信頼度、利便性、満足度を評価する質問リストを郵送あるいは記入可能なPDFをメールで送付します。その結果、とても満足している〜全く満足していないまで幅広い回答が寄せられています。
22年間MDRT会員のCitoliは「この情報はお客さまと一から始める必要があるのか、それともお客さまの求めに応じて長期介護保険や資産税対策といった具体的な内容に踏み込めるのか方向性を示してくれます」と述べました。
32年間MDRT会員のStickneyは信頼度を測るデータによって見込客がどのような考えや心境で来ているのかを垣間見られると言います。
ファクト・ファインディングのプロセスを正しく行えば お客さまは友人とコーヒーやランチに 出掛けているような気分になるでしょう。
—Jennifer Mann
「もしお客さまが悩みを打ち明けてくれるなら、たとえその悩みが本当は必要でないとしても最初にそれに対応します。彼らの不安を認めないのは無責任だと思います。またお客さまが全ての質問リストに非常に満足していると回答しているなら、問うべきは『なぜ私に会いたいのだろう? セカンド・オピニオンを聞きたいだけだろうか?』ということになります」と述べました。
見込客が最初のアポイントメントまでに基本的な情報を提供しない場合、CitoliとStickneyは情報を提供していただけるまでスケジュールを調整します。
「基本的な情報を前もって得られないのに面談をする意味があるでしょうか。これら全てに共通する課題は前もってお客さまが情報を開示したくなるくらいの信頼を十分に呼び起こすことです。もしくは、私たちを紹介してくれた紹介元を高く評価しているだろうかということです。このビジネスは信頼関係が前提となっているからです」と述べました。
Jamie McIntyre, CFPは以前ファクト・ファインディングの一環として「予算」を策定するようお客さまに求めていました。過去90日分の銀行口座とクレジットカードの明細書をダウンロードし、それをベースに12カ月分の予算を立てて送信してもらっていました。しかし実際に送ってくれた人はわずか30%でした。予算の話はお客さまとの間に緊張を生んだためMcIntyreのチームはお客さまが本当に求めているものは何かを掘り下げ、大きな違いを生み出す2つのポイントを特定しました。まずお客さまは予算という言葉から無意識のうちに犠牲や制限を連想することが分かりました。そこで予算を「支出プランナー」に変更しました。この言い換えによってファクト・ファインディングは人生で達成したいことを成し遂げるプロセスに変わります。支出プランナーを完成させることで目標を達成するためにどの支出が重要でどの支出が重要でないかが明らかになりました。2つ目は「支出プラン」で補完することです。これはアドバイザーが提案する明確なガイドラインで、お客さまは支出プランナーに説明責任を持ちます。それ以来ファクト・ファインディングの完了率は100%に急上昇しました。
「お客さまにとってのパラダイム・シフトは支出を制限するという自己犠牲の精神から決断力の強化に移行したことです。お客さまの行動にも変化があり、今では重要なことにお金を使うようになりました」と14年間MDRT会員のMcIntyreは述べました。
いくら稼いでいますか?
会ったばかりのアドバイザーに収入を聞かれるのを快く思わない見込客もいます。しかし18年間MDRT会員のJoseph Tan, ChFC, CLUはテクノロジーとちょっとした心理学を活用してお客さまの心を開かせます。このテクノロジーとは財務比率を計算するために何百もの計算式を同時に実行する独自に開発したソフトウエアのことです。しかし質問は収入や資産ではなく支出について尋ねることから始めます。
Tanはお客さまに「成功は習慣から生まれます。まずお客さまの習慣について分析させてください」と伝えます。光熱費、家賃など延々と続く支出について尋ね、コスト削減の余地がある項目を指摘します。
「お客さまの生活費を確認できたので、帳簿を整えていきましょう。収入はいくらですか? 支出と収入の比率を見てみましょう」と続けます。お客さまはもう見直し作業にどっぷり漬かっています。このプロセスは少しずつ進めるのが重要です。Tanはお客さまに「これは試行的な取り組みです。全てを率直にお話しください」と言います。
さらに株の保有額や収入、その他の資産を尋ね、それらの数字をアプリに入力して比率がどう変化するかコンピューターの画面で示します。銀行に残高がないと言われたら家計の財務指標が望ましい水準に達していないことを指摘します。「するとお客さまは『実はもう少しお金があります。その情報も入力してくれませんか。どうなるか見てみたいです』と打ち明けます。顧客体験が向上するにつれてより前向きになります。私のアドバイスはお客さまが提供する情報の質にかかっていることをお伝えしています。財務状況に対してグローバルなリスク管理プロジェクトを実施してほしければ、全てを話してもらわなければなりません」
面談での質問
25年間MDRT会員のKerry T. Wallingford, RICP, ChFCは50ほどの質問を用意していますが、台本を読むように機械的に進めたり全ての質問を網羅することはありません。最初のアポイントメントでは資産額やどういう貯蓄をしているかを聞くことさえしません。
面談の方向性は最初の質問の回答によって決めます。「本日の面談で何を得たいですか?」別の聞き方もあります。「現時点であなたにとって大切なことは何ですか?」
「重要なのは私たちがお客さまに話す内容ではなく、必要なもの、求めているものは何かです。それを聞き出せれば、後で活用できる有益な知識が得られます」と述べました。
彼女のお気に入りの質問は「お客さまの最も貴重な財産は何ですか?」です。
「いくらの資産があるかではなく自分や家族をどれくらい大切に思っているかを知るために尋ねています。資産に関する問いかけを包みこんだ価値観に関する質問です」配偶者や子どもと答えるならお客さまの焦点はお金を超えたところにあると言えるでしょう。「私はお客さまが愛するものを守る手助けをしています。もしお金のことしか考えていないなら私は適役ではないかもしれません」と語りました。
重要なのは私たちがお客さまに話す 内容ではなく、必要なもの、 求めているものは何かです。 それを聞き出せれば、後で活用できる 有益な知識が得られます。
—Kerry Wallingford
Wallingfordはさらにお客さまがアドバイザーと仕事をしたことがあるか、そこでどのような経験をしたかを尋ねることにしています。その答えによってなぜそのアドバイザーと仕事をしなくなったのか、何らかの理由で関係が悪化したのかが分かるかもしれません。別の質問ではお客さまはご自分のやり方をどの程度変える気があるか1から10で答えてもらいます。またお金の相談をする親戚などがいるか尋ねます。もしいるなら、その人も面談に参加してもらい私たちの話を理解してもらうべきか伺います。
「お客さまが『その人に参加してもらう必要はない』と言いやすくするための問いかけです。ある意味で先手を打つということです」と述べました。
面談の終盤では「私はファイナンシャル・プランで何よりも大事にするのは○○です」の○○を埋めるよう促します。その後はひたすら耳を傾けます。返事を待つ間、気まずい沈黙が続くこともあります。
「お客さまに考えさせます。そういう沈黙がないとお客さまは何を求めているのか話してくれないからです。自分が沈黙を破ると成功しません。お客さまが本当に望んでいるもの求めているものは何かという視点から理解することが大事で、相手の発言をそのまま相手に投げ返す力が得られます。私は最初の面談でお客さまが話したことを持ち帰ります。それは次世代への財産相続や住宅ローンの繰り上げ返済の話かもしれません。次回は『住宅ローンの繰り上げ返済が経済的にどう影響するか話し合いましょう』と持ち掛けます」
27年間MDRT会員のAndreas T. Dailey Sr., CLTCも質問をしてお客さまが話すのを待つ手法を提唱しています。彼は質問をしたら再び口を閉じます。
「かなり難しいこともあります。会話中ペンを持っているなら手元の紙とペンをじっと見ています。一言もしゃべらずペン先を凝視するだけです。沈黙は気まずいですが、答えを求めていることを感じてほしいのです。ペン先を2分間見ているだけのときもありますが、そのようなときこそ探していた答えが得られます」と述べました。
すでにした質問を言い直すこともあります。お客さまが答えたらその答えを繰り返し、さらに質問します。「それ以外にも何かありますか?」
「核心に迫る必要があるのに最初はふわっとした答えしかくれないことがあり、2回目の質問に対しても曖昧な答え方をされる場合があります。しかしそれを繰り返したり言い直したりしていると、核心を突いた答えが返ってくるようになります」と述べました。
Who (誰が)、What (何を)、When (いつ)、Where (どこで)というWの質問の中でDaileyのお気に入りはWhy(なぜ)です。「なぜそうなのか(why)が理解できれば他の全てのことも意味を持ち、お客さまを動かしているのは何かを理解することに繋がります」と語りました。
Paul Milbourneが以前使っていたファクト・ファインディングの手法はお客さまと良好な関係を築くのにあまり適していませんでした。4年間MDRT会員のMilbourneがかつて行っていた面談は型にはまっていて毎回同じ流れで用意した質問を全て聞き終えると後が続きませんでした。
それが変化したのは元MDRT会員でトップ・オブ・ザ・テーブルだったメンターTerrence James Brainに保険ニーズについて話し合うため上級レベルの経営者との面談に同行してほしいと依頼してからです。2回目の面談の後、Milbourneはメモを閉じ見込客の問題点とその解決策をBrainに報告しました。
「Terryは私の目を見て『君の言っていることは100%正しい。しかし、お客さまは解決してほしい問題をまだはっきり話していません。私たちは彼らの問題ではなく自分の問題を解決しているに過ぎません。彼らともう一度面談をする必要があります』と言いました。疑問に思ったら質問をするという考え方を学んだのはその時でした。面談が終わったと思っても別の質問をする。質問し続けるのです」と述べました。
2人はその後13カ月で7回面談し、経営幹部の後継者問題や事業継続の関心事について深く掘り下げました。その結果、経営者が初期の面談で言っていた内容とは大きく異なるプランが出来上がりました。「最も画期的なのは私たちが純粋にお客さまの問題を解決していたという点です。当初、私が解決しようとしていた問題には年間3万ドルの保険料が必要でした。しかしお客さまが解決したかった問題は12万ドルの保険料が必要だったのです。学びのあった瞬間であり、質問したらさらに掘り下げて質問することの価値に気付きました」
Milbourneのオンラインによるファクト・ファインディングは約2分間で終わります。それは基本的な情報の収集を先に済ませ、お客さまのプロフィールをある程度作成しておくからです。彼は面談前にお客さまが何を望んでいるのか安易に推測しません。むしろ相手が本当に関心を持っているのは何かを探るために質問を練り始めます。「どんな心配事がありますか?」「どんな問題を解決してほしいですか?」「あなたにとって成功とはどんなものですか?」
「生命リスクについて知りたければ誰もがネットにアクセスし、必要な保障額を計算できます。それは明確な論理と事実ですが、感情は論理で説明できるものではありません」と言います。
核心に迫る必要があるのに 最初はふわっとした答えしか くれないことがあり、 2回目の質問に対しても 曖昧な答え方をされる場合があります。
—Andreas Dailey Sr.
感情をつかさどる脳科学を活用した質問の1つは「もしお客さまが病気やケガで働けなくなったら、どのくらいの期間収入がなくても銀行の残高を気にせずに安心して過ごせますか?」というものです。
「もし給料が入らなかったら大変なことになると気付く瞬間が必要です。それを口に出してもらうことは収入を補てんすることの重要性を理解する助けになり、重大疾病保険や特定疾病保険を紹介したりお客さまの生活にどのように活用できるか説明したりできます」と述べました。
また大黒柱や配偶者が亡くなったときにどのような気持ちになるかを理解させるために実話をシェアすることもあります。脅して保険に加入させるのではなく2つの異なる結末を示すためです。1つは30代前半で大腸がんと診断された彼の従姉妹の実話です。一家はわずかなお金しかなく保険に加入していなかったので夫はトラックの運転手を続け、妻が治療で入院している間は親戚に頼み込んで子どもを預けなければなりませんでした。逆の結果になったのは30代半ばにがんで亡くなった義理の兄弟です。この方は保険に加入していたので彼の妹は1年半に及ぶ治療に付き添え、生活費や住宅ローンを払うために働く必要がありませんでした。
「お客さまと状況が似ている人に何が起き、どのように進展したかを明確に思い描いていただきます。困難なときに経済的な心配がなかった人とあった人との正反対な結末を示せます」と述べました。
そして答えを導き出す問いかけをします。「3年後、私たちの関係やあなたにとっての成功はどうなっていると思いますか?」「何を達成したいですか?」答えには住宅ローンの完済や子どもの教育資金を確保すること、家族の経済的安定を得ることなどが含まれるでしょう。この質問は他の問いかけでは出てこなかった回答を引き出します。
「もし1年後に再びお会いしているとしたら、私と一緒に仕事をして良かったとお客さまが感じていただくにはどんなことを達成しているべきでしょうか。3つ挙げてください」と尋ねることにしています。
「お客さまがその質問に答えられないこともあります。私に何を求めているのかお客さま自身が知らないと私もご希望をかなえる方法が分かりません。私に達成してほしい具体的な事柄がない場合、私に適したお客さまではないかもしれません」と語りました。
ファクト・ファインディングは事実や数字を集めることより家族や愛する人を守る、という人間の普遍的な欲求や願望を確認することかもしれません。
「ファクト・ファインディングでは住宅ローンの残高や貯蓄額といった金銭的な質問はしません。それはお客さまが私と仕事したいと決めた後に取っておきます」とWallingfordは述べました。
メモの取り方
お客さまとの面談中のメモの取り方は多くのアドバイザーがペンとメモ帳に頼っており、時間を節約し正確さを高めるために他の方法を探す人たちもいます。Wallingfordはほとんどの面談をビデオ会議で行い、お客さまの答えをPCに入力しています。
「耳を傾けると多くのことを学べるので、相手が質問に答えている間は判断しないことにしています。答えているときは何の反応も示しません。ひたすらタイプしています」と述べ、他のメモの取り方も模索していると述べました。
Stickneyは面談後にメモをOtter.aiに音声入力し、要約とToDoリストを作成してもらっています。Milbourneは音声録音と書き起こしのサービスでオーストラリアのプライバシーとデータ・セキュリティ基準に準拠しているFinTalkrを利用しています。他にもZocks、Jump、Filenote.ai、FinMate.aiなどの人工知能を利用し金融サービスの専門家を念頭に作られた音声録音と文字起こしのツールがあります。