キャリア変更に新しいスキルの習得が必要とは限りません。むしろまったく異なる感情に適応することなのかもしれません。元脳神経画像技師のAngelica Simにとってキャリアの変更は想定外の課題と気持ちの整理を必要とし、貴重な教訓をもたらしました。個人的な感情と職業上の責任をきっちり分けることを学んだので、シンガポールの 2年間MDRT会員のSimはファイナンシャル・アドバイザーとしての職務を上手に管理し、成功することができました。
「もう4年以上前に脳神経画像技師の仕事から金融サービス業界へ転職したとき、仕事の内容だけでなく、直面する感情的な課題も大きく変化しました」と語りました。「脳神経画像技師として働いていたころ患者さんたちはほとんどいつも感謝と敬意に満ちた姿勢で接してくださいました。私の仕事は臨床的な環境で担当することが決まっていました。次に何が起こるかを正確に把握でき、相互のやり取りも共感に満ちたものでした。それなのに私は常に自分の限界に挑戦し、進歩や成長を自分でコントロールできる役割を望んでいました」
保険業界での仕事は彼女が慣れ親しんだ臨床現場とは対照的な世界で、当初直面した最大の課題はお客さまからの断りでした。「最初はNoといわれるたびに、人間として否定されているように感じていました。保険募集人(シンガポールでの一般的な職業名)だから断られるのか、それとも私は嫌われているのか、真剣に悩みました。特に当初は自信もなく、信頼されていないと感じていたので辛かったです」と振り返ります。
感情的な葛藤は当時のお客さまとのやり取りにも影響を与えました。「私は過度に慎重になり、時には自分の判断を疑ったり、断られないように必死になりすぎたりしました」と語ります。自信のなさそうな雰囲気はお客さまに最良の第一印象を与える妨げになっていました。
本当は経験の浅い新人の自分にチャンスを与えてくださったお客さまに、心から感謝していたのに。「少しでも気持ちが伝わった時はとてもうれしくて、小さな成功を大切にしながら学んでいきました」と彼女は言います。
ターニング・ポイント
特に難しいお客さまとの対応はSimのキャリアにとって重要な教訓となりました。「駆け出しのころ、とても難しいお客さまとのアポイントメントがありました。とても厳しいお客さまで、時には私を怒鳴りました。まだ業界での立ち位置を確保できていない新人だったので、自分はまったく無力だと感じました」と振り返ります。「やっと面談を終えると、涙が込み上げてきて、上司に1時間ほど電話で泣きつきました。でも、もっと重要なことは、この経験からこの業界で最も貴重な教訓を学んだのです。つまり物の見方「視点の大切さ」です。お客さまの反応は、私個人やプロとしての能力よりも、お客さま自身の不安や不満に関係していることに気づきました」と説明します。心を切り替えたことで、彼女は主に25歳から30歳でキャリアをスタートさせ、学生ローンを返済中の女性を中心に、約250人のお客さまにフォーカスすることで、充実したビジネスを構築することができるようになりました。年間保険料の一括払いではなく月払いを希望するお客さまに、必要な保障を確実に提供するという彼女のアプローチと、満足したお客さまからの強力な紹介が相まって、MDRT の入会資格を取得するに至りました。
現在は自分の感情のバランスを保つために新しい戦略でお客さまとの面談に臨んでいます。断りや否定を自分に対する断りと受けとめるのではなく「コントロールできる事だけコントロールする」という考え方を採用することにしています。お客さまの反応は自分のコントロールが及ばないことだと自分に言い聞かせ、準備や態度、逆境への対応はコントロールできると信じています。
さらに重要なことは、自分の感情をきちんと分類する方法を学びました。難しいお客さまや状況に直面するたびに、その感情を次のアポイントメントまで引きずる必要はない、と自分に言い聞かせます。次の顧客に自分のベストを尽くす義務があります。前の面談で抱えたマイナス感情を持ち込んではいけない」と言います。心の切り替えは、1つのネガティブな気持ちが次の面談に悪影響を与えないように、意識的に行動することにしています。
面談には最高の自分で臨む
そしてSimは面談で常に最高の自分を見せられるよう、さまざまなテクニックも取り入れています。「まず、アポイントメントの15分前には必ず到着するようにしています。その余裕のおかげで、気持ちを整え、面談内容を頭の中で整理し、精神的な準備ができます」と言います。「この時間にお客さまのプロフィールや話す内容だけでなく、お客さまが座る場所、会話の流れ、注文する飲み物などの細かい部分までイメージします。この時間をとることでお客さまに快適で居心地の良い環境を作ることに集中できます。
例えば、彼女が実践している簡単な戦略のひとつは、その面会の雰囲気に合った設定を意識的に選ぶことです。たとえば、昼食時のアポであれば雰囲気を変えてリラックスできるようにコーヒーショップを選ぶでしょう。逆にコーヒーの約束の場合は、軽食が食べられる場所を提案します。些細なことかもしれませんが、こうした小さな気遣いがポジティブな雰囲気を作り、それが彼女の心のリセットにつながっています。
もう 1 つのシンプルで効果的な手法は、パーソナライズすることです。お客さまの好きな飲み物からミーティングの進め方まで、お客さまの好みを覚えておくことを重視しています。「お客さまの好みを記憶することからニーズや思いを理解する努力をしていることを示せます。自分が大切にされていることを感じてもらえますし、私もその場に集中してお客さまに全神経を注ぐことができます」と語ります。
医療関係から金融サービスへと転身した彼女のジャーニーは、職業で成功するには商品や方針を習得するだけでは不十分であることを示唆しています。落ち込んでも復活する力を養い、困難に直面してもプロとしての冷静さを保つことを学ぶことも必要です。細部にまで気を配り、入念な準備と自己成長への取り組みを通じて、Sim は初期の挫折を貴重な教訓に変え、現在は顧客サービスのアプローチに活かし
ています。 Contact: MDRTeditorial@teamlewis.com