激動の中で顧客を導く
市場の変動はクライアントの不安を招きますが、リスクとリターンの関係を考えることで冷静さを保てます。
1500人以上のクライアントを抱えるMarc A. Silverman, CFP, ChFCはこの4年間、自身の事業で資産管理の割合が着実に増加し、生命保険や就労不能保険を上回っていくのを見てきました。増加するポートフォリオをお預かりする彼の会社は、株式市場の下落時には損失回避傾向の特に強い人々がまず問い合わせる窓口になりそうなものです。では直近で市場が変動した1月から5月に彼は何件の電話に対応したでしょうか?なんとたったの3件です。
41年間MDRT会員のSilvermanは「市場が不安定なときに何が起こるのかお客さまを教育しておいたことが功を奏したのだと思います。重要なのは問題が起きてからではなく、予測して対処しておくことです」と述べました。
Julianne Hertel, CLU, ChFCのところにも株式保有を止めたいというクライアントからの電話はありませんでした。10年間MDRT会員のHertelは4月初旬にお客さま宛てに数回メールを送り、以前の会話で触れた期待値や分散投資、長期的な視点について改めてアドバイスしました。
株式市場の歴史で下落がいつまでも続いたことは一度もありません。
—Richard Dobson
「私は冷静でいること、直ちに反応しないこと、また年に一度のプランニングで話し合ったボラティリティに関するあらゆる事柄を要約してお伝えしました。何人かのお客さまは感謝の言葉を贈ってくださり、市場の変動についてもっと説明してほしいと要望された方はお一人だけでした」と言います。
市場の不確実性をコントロールすることは誰にもできませんが、アドバイザーは投資価値が急激に乱高下するのを目の当たりにしてクライアントが感じるパニックを軽減したり避けたりできます。混乱はむしろチャンスを生み出すこともあります。
個人年金
新型コロナウイルス感染症によって生命保険や重大疾病保険、医療保険へ加入することへ世の中の姿勢が変わったように、最近の株式市場の不安定さにより保証付き年金収入商品への意欲が高まっています。
Pui Ka Lamは過去2年間、年金をあまり販売していませんでした。特に事業主のお客さまは市場や自社への投資で高いリターンが得られるときに、資金を満期になるまで長期にわたって保険会社に預けることに抵抗を示していました。
「今年は市場が非常に不安定なので変化が見られます。今は多くのお客さまが年金に価値を見いだしています。彼らの視点はリスクを取るより市場がどう動こうと退職資金や教育資金として受け取りが保証されている年金保険へとシフトしています」と8年間MDRT会員のLamは述べました。
例えばあるレストラン経営者は5歳の娘が将来結婚して家庭を築くときに多額のお金を持たせたいと言いました。
「私は『お客さまのビジネスが娘さんの門出に十分な資金を20年後に捻出できる保証はありますか』と尋ねました。お客さまは『分かりません。マーケットは非常に不安定ですから』と答えました。私は『それでは年金保険はいかがでしょう。市場や世界情勢にかかわらず娘さんのために資金を用意できます』と提案し、彼女は年金に加入しました。ビジネスの成功は保証できなくても、娘が25歳になったときにこの贈り物を確実に渡せることを悟ったからです」とLamは語りました。
お客さまに投資の動機は何なのかお尋ねします。乗り遅れることへの不安なのか、過信なのか、損失への恐れなのか、そして何を失うことを恐れているのかを確認します。
—Tristan Hartey
Lamはお客さまとの初回の面談で期待値を設定する際、常に投資と保険の違いを説明することにしています。投資は資産を増やすため、保険は失いたくないものを守るものです。とりわけ最近の市場変動により両者の違いはより鮮明になっており、特に投資だけで家族を守れると思っていたクライアントはそれを強く感じています。
2025年の第1四半期に彼女は1日あたり5〜8人の富裕層のお客さまに連絡を取り、最新の状況を説明しました。いくつかの話し合いはアップセルの機会になりました。あるお客さまはポートフォリオを株式と保険に分けていました。Lamはこの方の株式投資が市場の影響を受けやすく評価額がさがる可能性があること、一方で保険は家族を守り続けることを説明しました。それを受けてお客さまは保険の保障額を倍に増やしました。
不快感はプロセスの一部
人間の心理は機会を認識するよりも危害を避けるようにプログラムされています。そのため市場が下落すると通常、逃げたいという衝動の方が留まるという理性よりも強くなります。しかし不安や苦しみが株式投資家になる過程には付き物であることを理解すればボラティリティから逃げ出すことはないとRichard Dobson Jr., CFPは言います。
23年間MDRT会員のDobsonに問い合わせが殺到しているわけではありませんが、ごく少数のクライアントは「なぜ心配しなくていいのかもう一度説明してください」と連絡してきます。そこでDobsonは初めてお客さまの期待値と現実をすり合わせたときの会話を改めて取り上げます。彼はペンシルベニア大学ウォートン校の名誉教授(金融論)であるジェレミー・シーゲルの著書『株式投資 長期投資で成功するための完全ガイド』を引用します。同書では1802年以降の北米の大企業株を分析すると、過去200年間でインフレ調整後のリターンは年平均6.5〜7%であることを指摘しています。仮に1802年に株式市場に1ドルを投資していたら、2012年末には70万ドルを超える価値に成長していたでしょう。
市場変動が正常であることをグラフや統計で説明するのに加え「平均的」とは半分の期間のリターンは平均より高く、もう半分は低いことを意味すると伝えます。片手に熱いジャガイモ、もう片手に氷の塊を握っているようなものです。
「平均すれば問題ないはずですが、それでもお客さまは心理的なストレスを感じるでしょう。私たちはこのような不快感もプロセスの一部であると伝えなければなりません。そのような状況になったとき、最初に説明された通りだと思い出していただくことが大事です」とDobsonは述べました。
さらに前回の市場下落時までさかのぼり、その後にお客さまのポートフォリオがどのように回復したかを示すこともあります。
「株式市場の歴史で下落がいつまでも続いたことは一度もありません」とDobsonは語ります。お客さまが理性を失い感情的になりやすい変動期には、実証的なデータを大量に示すのは最善の策とは限らないことを付け加えました。「クライアントは安心感を求めており、多くの場合アドバイザーの態度や行動が極めて重要です。株価の上がり下がりは日々起きますが長期的に見れば市場はひとつの方向、つまり上昇に向かっています。下落局面ではハイビームで先を見据える必要があり、お客さまはシーゲルの貴重な研究から安心感を得られます」
理性vs.感情
11年間MDRT会員のTristan Hartey, Dip FA, BA (Hons)は、新規顧客にサービスを案内するプロセスでお金に関わる事柄には感情を排除する必要があることを理解してもらうようにしています。
「お客さまに投資の動機は何なのかお尋ねします。乗り遅れることへの不安なのか、過信なのか、損失への恐れなのか、そして何を失うことを恐れているのかを確認します。どの点にフォーカスしているかを理解することで相手に合わせた形で情報を伝え、お客さまがプロセスに従い続けられるよう支援します」と述べました。
Silvermanも顧客導入プロセスにおいて1933年以降S&P500の上昇傾向を示すアメリカン・ファンズ・グループのチャートや、投資の神様ウォーレン・バフェットの「私が好む株式の保有期間は永遠だ」、著述家でありアドバイザー・コーチでもあるNick Murrayの「下落は一時的だが利益は永遠」といった賢人たちの言葉を通して株式の長期的な安定性を強調します。
ボラティリティはこのゲームに参加するための対価です。
—Marc Silverman
「ボラティリティはこのゲームに参加するための対価です。『もう市場から手を引きたい』と言った3人のお客さまに対し、私は『いつ戻って来るおつもりですか。市場は底をついたときに戻って来て良い、と教えてくれますか』と聞きました。市場の動きを正確に読むことはできません。市場に居続ける時間こそが重要で、タイミングではない」とSilvermanは述べました。
資金を分けるバケツの必要性を思い出させることも安心感を与えます。Hertelはお客さまに3つのバケツを用いて説明します。1つ目のバケツにはこの先5年間で必要な収入を安全な固定金利の口座で確保しておきます。2つ目のバケツは中期的なニーズのために割り当てられ約60%を株式に投資し、3つ目は長期的なニーズで目標や退職までの期間に応じて90%以上を株式に投資します。
「1つ目のバケツは安全で保証されており、困難な状況を乗り切れることを再確認します。私たちは2022年を耐え抜き、好調だった年に2つ目と3つ目のバケツを補充しました。最近は再び乗り越えなければならない状況にあります。1つ目のバケツが4%しか上昇していないのにS&P500が20%も上昇していたときは複雑な気持ちでしたが、今はこうしておいて本当に良かったと思っています」と語りました。
ファンド管理会社とウェルス・マネジメント業務の運営を担うHarteyもクライアントに3つのバケツを用意し、そのうちの1つは短期的な支出を賄うため約3年分の現金を保有するためのものです。彼の会社は四半期ごとにファンド・マネージャーが3つの質問に答える10分間のインタビュー動画と音声の文字起こしをしてお客さまにメール送信しています。直近の四半期に何が起こったか、次の四半期に何を変えるべきか、その変更は何をもたらすと思うか。この動画の開封率は40%になります。
「メールに返信して感謝の気持ちを伝えてくださるお客さまもいます。面談のときに『あの動画を送ってくれて本当にありがとう。おかげで不安が和らぎました』と言われることもあります」とHarteyは述べました。
コロナ禍と現在
新型コロナウイルス感染症は感染率が低下し保健当局が世界的な緊急事態の収束を宣言したので、パンデミックが終わりつつあることが明らかになりました。現在の市場変動がいつ落ち着くのかに関しては予測が困難です。
「コロナ禍にはさまざまな投資会社が多くの資料やオンライン・セミナーを提供していました。利用できるものが毎日何かしらありましたが、今回は当時ほど包括的なものはないような気がします。コロナ禍ではトンネルの先に光があることを期待できましたが、現在のマーケットはニュースに大きく振り回される傾向にあります。投資会社が先見的な情報を提供できないのも理解できます」とHertelは述べます。
新型コロナウイルス感染症のときHarteyの会社には不安を抱えるクライアントからの問い合わせが増加しました。「当時は誰もが本当に心配していましたが、現在のマーケットに関しては以前にもこんなことがあったという認識がクライアントの間で広がっています。私たちにはお客さまと定期的にコミュニケーションを取るためのしっかりとした仕組みが整っています」