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気持ちを読み解く
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5 01 2023 / Round the Table Magazine

気持ちを読み解く

より良い意思決定に導くためにお客さまの気持ちを理解する。

対象のトピックス

Helen Jayne West, APFSは、英国、Plymouthの24年間MDRT会員です。Westはクライアントにも自分と同じように貯蓄計画を理解してもらいたいと考え、優れたアドバイザーは全ての知識を共有すべきだという信念で行動していました。しかし今は違います。向き合い方を改めてより良いコミュニケーターになろうと努めています。

米国バージニア州Herndonの4年間MDRT会員のPamela J. Sams, CRPCは一流の金融・保険プランを作成し、お客さまから暫定的な同意は得られるものの、そこから先へ進めることができませんでした。さまざまな方のお金に対する考え方を理解して初めて、契約に踏み切れない理由が分かるようになりました。

アドバイザーがお客さまの状況を改善するのに最適な商品やサービスを紹介しても、お客さまが保険の価値を信じていない、または投資に対する嫌悪感から提案を断ると全てが台無しになる可能性があります。アドバイスの内容を十分に理解してもらうことはもちろんですが、クライアントの思い込みや行動を理解して信頼関係を結ぶことはもっと大切です。

無意識の世界地図

「仲間のアドバイザーがライフコーチのメソッドをお客さまに試したところ、コミュニケーション能力がアップしました」と語るWestはクライアントとのコミュニケーション向上のために、英国のInternational Network for Humanistic Neuro Linguistic PsychologyからNLP(神経言語プログラミング)マスター・プラクティショナーの資格を取得しました。「ライフコーチは人が現状からなりたい自分になることで目標達成をサポートします。それはアドバイザーがクライアントの財務に対してすることと同じです」と述べます。

自分の観念を人に押し付けていたことに気付きました。
—Helen West

NLPは潜在メンタル・プロセスと顕在メンタル・プロセスの間に良好なコミュニケーションを構築しようとするものです。NLPでは人は経験を通じた主観が入るため、誰も自分の人生を客観視できないと考えます。私達の思考フィルターは感覚や記憶、信念、価値観、アイデンティティー、スキル、環境、目的意識によって作られ、情報をゆがめ、自分や他人、出来事をより否定的に捉えさせます。

このような内的フィルターにより私達の脳内マップは作られています。これは人それぞれ異なります。2人の人間が同じ事実を見ても違う結論を出すのはそのためです。私達は現実よりもこのマップに影響されやすく、言葉や考え方を通してマップをさらに確固たるものにしていきます。

「私はNLPプログラムを受けて初めて自分の観念を人に押し付けていたことに気付きました。自分の中のフィルターや思い込み、好みを取り除き、相手の状況を違う角度から見ることができるようになったのはとても貴重な経験でした。主役であるお客さまにとって何が重要か、何をしたいのか、何が足かせになっているのかに焦点を当てられるようになりました」とWestは言います。

NLPプラクティショナーはこのマップの構造を掘り下げて見ていきます。人の信念は自己認識に大きな影響を与えます。マップが作られた経緯が分かれば、変えることができます。少なくとも思考パターンが行動や決定にどう影響するかを理解することができます。

ストーリーでつながる

このスキルのおかげでWestはクライアントの信念を探り、分かりやすいアドバイスができるようになりました。あるお客さまの奥さんが母親から高額な投資信託を相続しました。そのお客さまは義母がその投資信託を購入したアドバイザーから、高額な手数料を避けるために売却を勧められ手数料の安いファンドに変えようとしていました。背景について質問していくと、亡くなられた母上は24年間そのファンドを所有していたことが分かりました。そこでお客さまの職業である農業を例にとり、彼が共感しやすい説明をしました。

「種は24年前に植えられ、かなり大きな木に育っています。もしそれを切り倒したら、つまりファンドを売却してしまったら、新しい畑を開拓し、また種を植えなければなりません。芽が出るまでどれくらいの時間がかかるでしょうか」と言うと彼は全てを理解しました。その結果夫婦で話し合い、投資はそのままにして妻の名義に変更し、年1回のレビューで改めて相談することになりました。

種は24年前に植えられ、かなり大きな木に育っています。もしそれを切り倒したら、新しい畑を開拓し、また種を植えなければなりません。芽が出るまでどれくらいの時間がかかると思いますか。
—Helen West

別のライアントは相場が低迷しているときに株を売ろうとしていました。そこでパイロットというその方の職業を意識した話をしました。

「ひどいパニック状態だったので、これだけお伝えしました。この投資は中期から長期向きです。ベルトを締め、しっかりつかまってください。今飛行機から飛び降りるべきではありません。そのユニットが価値を取り戻すまで待ちましょうと説明して彼を窮地から救いました。その時諦めていたら株を売却していたでしょうし、3ヶ月後には市場が回復したので、とてもがっかりしたでしょう」とWestは言います。

クライアントの職業、趣味、好きなスポーツなどをもとに、Westは適切な質問をします。クライアントの思考構造に結びつく話をすることで、何を望んでいるか、どうすればそこにたどり着けるのかを明確にしていきます。

彼女のアドバイスは経済や保険に関するものだけではありません。NLPを使いクライアントが自己制限をかける信念に打ち勝つコーチングも行っています。ある35歳の主婦は大学に行きたいという希望がありましたが、年を取り過ぎていると躊躇していました。

「なぜ大学に行きたいのですか。勉強するメリットは何ですか。年だから無理だと思っているのはどの教科ですか。このように質問して相手を導いていきます。そうすると、『資格が取れたらあの仕事に応募しよう。年金も旅行もついてくるし、娘は16歳で手が離れたから、パートタイムで働きながら学校に通う余裕もあるかもしれない』というように、相手が自ら話を展開してくれます。秘訣は指図せず質問すること」とWestは述べます。

行動ファイナンス

Samsはミズーリ大学で心理学を副専攻しましたが、その知識を実務に生かすことはこれまでほとんどありませんでした。しかし在籍していたブローカーディーラーに行動ファイナンシャル・アドバイザー(BFA)の資格を取得する機会を与えられました。彼女はそのチャンスに飛びつき、早速登録して授業に参加し、お客さまが彼女の提案を受け入れないのは思い込みが原因であることを学びました。

BFAは伝統的なファイナンスと心理学や神経科学を融合し、厄介な感情がある場合でもクライアントの支出や貯蓄の行動にポジティブな影響を与えることができます。行動ファイナンスでは人間の脳は3つの分野に分けられ、人が意志決定をするときは知性をつかさどる大脳新皮質ではなく、感情に関することをつかさどる大脳辺縁系を使うと認識しています。BFAは損失回避や買い手の過信など、人の不合理な行動を理解するトレーニングも受けるので、お客さまがより良い判断を下せるようサポートできます。

「行動学のコンセプトを導入し、クライアントがなぜそのような決断を下すのかが分かり始めると、お客さまをより深く理解できるようになりました。そこから、私が提案する解決策とお客さまの価値観を通して実現したいことを擦り合わせていきます」とSamsは言います。

人の価値観を理解するにはカードを使ったエクササイズをします。まずは安全、安定、人助け、幸福などの価値観が書かれた52枚のカードに目を通してもらいます。お客さま独自の価値観をカードに書き加えることもできます。次にそのカードをYesとNoの山に分けていただきます。続いてYesのカードを厳選して15枚、10枚と減らしていき、最終的には5枚に絞ります。

「その5つを中心に質問をします。例えば、家族を選んだ人にその理由を聞くと『きずなの薄い家で育ったので、自分の家族とはつながりを大切にしたい』と言うかもしれません。『私がいなくなっても、家族が安心して暮らせるようにしたい』という理由で保障のカードを選んだ人には生命保険の話をします。お客さまの価値観を把握し、それに合わせた解決策を考えていきます」とSamsは言います。

BFAになる前のSamsは生命保険のメリットをアピールし、お客さまにいくらの保障が必要かを判断してお勧めしていました。しかしそのアプローチではクライアントが保険を断る根本的な原因を探る質問はできませんでした。何年も前に両親や祖父母が実際の保険金以上の金額を約束した粗悪な保険に加入していて、その経験が保険に対する考え方に影響を与えているかもしれません。行動ファイナンスのアプローチは足かせになっているものを知ることができます。そして、保険業界は当時から進化しており、家族の経済的なケアや子どもの教育費を負担してくれる保険は安心というお客さまが求める価値観に沿うものだと説明できます。

リスク回避の克服

旧ユーゴスラビアのセルビア人とクロアチア人の争いから逃れて、難民として両親とともに米国にやってきた女性もSamsのクライアントのひとりでした。

彼女は母国を離れなければならず、お金もあまり持っていませんでした。お金を失うことやリスクを恐れて投資を嫌がっていました。

そこで外部のマネー・マネージャーと組み、安全性と生涯収入を求めるクライアントの価値観に沿った金融戦略をカスタマイズしました。その結果、彼女は保守的なポートフォリオで投資への第一歩を踏み出しました。その後、インフレがこのポートフォリオを上回り、投資額が伸びなくなることを説明し、保守的過ぎないポートフォリオにステップアップして生涯収入を実現することをお勧めしました。

彼女は母国を離れなければならず、お金もあまり持っていませんでした。お金を失うことやリスクを恐れて投資を嫌がっていました。
—Pamela Sams

「会話をしながらお客さまの価値観に合った解決策を提案し、A地点からB地点まで効率的に移行していただきます」とSamsは言います。「クライアントと深い対話をすることで、根本的な原因を理解し、ファイナンシャル・ライフを進歩させる解決策を提案することができます。これを知らなければ、なぜこの優れた解決策を受け入れられないのか理解できず、ご加入いただくことは難しかったでしょう」

BFAを取得した後、行動ファイナンスのプロセスを新しいクライアントに紹介しました。その後、既存のクライアントにも適用し、再認識するセッションを始めました。

「10年間お仕事をさせていただいたお客さまでも知らないことがありました。これまでも素晴らしい関係を築いてきましたが、行動ファイナンスによって、相手がどんな人なのか、金銭的なことだけでなくひとりの人間として理解する感覚を得ました。アドバイザーとして相手のために何ができるかを考えることに加え相手をより深く理解することになるので、人間関係がもっと濃密なものになります」とSamsは語ります。

CONTACT

Pamela Sams pamela@jacksonsams.com
Helen West helen.westfm@gmail.com