典型的なファイナンシャル・アドバイザーといえば、気さくで人懐っこく、誰とでもすぐに打ち解けられるタイプ、つまり外向的な人を思い浮かべるでしょう。
しかし、世界人口の約3分の1から半数は内向的性格であることを考慮すると、ファイナンシャル・アドバイザーの中にも内向型が少なからずいるはずです。内向的性格を自覚しているMDRT会員の中には、時に困難に直面することはあっても、総合的にはそれが欠点ではなく強みであると捉える人もいます。
スイスの心理学者カール・ユングは1910年に初めて内向型と外向型の違いを理論化しました。最近は「内気な性格」と「外向的な性格」とシンプルに分類されていますが、ユングの理論では「内向型の人は孤独を好み、一人でいる時間からエネルギーを得るのに対し、外向型の人は他者との交流に喜びを感じ、外部からの刺激を求める」と定義されています。
「金融サービスや営業に従事していると社交的ですぐに打ち解けられる外向的な人だと思われがちです。しかし、私はそういう人間ではありません」と9年間MDRTのJohan Fanggara, CFPは言います。
8年間MDRT会員のSe Hyuk Leeが金融サービスの仕事に就いたとき、その内向的性格から、上司は彼が半年も続かないだろうと思っていました。しかし彼は自分を無理に変えるのではなく、内向型の強みを生かし、特に人を観察し研究する能力にフォーカスしました。短期間に10人のクライアントに会うよりも、1人のクライアントに10回会って相手を深く知り、信頼関係を築きました。その結果成約率が上がり、より大きな契約をお預かりするようになりました。
「お客さまの人生に興味関心を持たなければ、サポートする方法は見つけられません。このアプローチにより顧客との絆が深まり、継続率が向上し、満足されたお客さまから貴重な紹介をいただくなど、大きな成果を上げています」と述べます。
新たな視点
8年間MDRT会員のTommy Khoerniawanもまた内向的な性格で、営業経験ゼロの元駐在員として金融サービス業界に足を踏み入れた時は、自身の境遇が不利だと感じました。それでも始める前から諦めるのではなく、自分の強みに意識を向けるようにしました。
「私には十分な強みがあると自分に言い聞かせ、設定した目標を達成しました。さらに傾聴力を高めたり適切な質問をしたりする能力を伸ばすことにフォーカスしました」
13年間MDRT会員のTimothie Syも内向型の特性に前向きに取り組んだ一人です。
「お客さまと話すことが大きな挑戦でした。想定される状況をフローチャートにした台本を暗記して準備をしました。鏡の前でひとりで練習もしました。しかし努力の甲斐なく、最初の2カ月は成約に至りませんでした」 と振り返ります。
大学を卒業したばかりでお金がありませんでしたが、Syは見込客との繋がりを強めるために自身も保険に加入しました。
「これが功を奏しました! どんな保険に加入しているかと聞かれるたびに、保険は金もうけのためではなく、万が一の事態が起きた時に家族の経済的な自立を助けると伝えました。どの家族にとっても大切です」と言います。
「友人に会う」つもりで
14年間MDRT会員のXumin Zhang, RFCは金融サービスの仕事を始めた頃、内向的な性格のため苦悩し、仕事を続けるべきか悩みました。特に、断られることが多い飛び込み営業が苦手でした。そこで断られた不快な経験よりも、もっと大きな視点を持つようにしました。
「100人中90人に断られても、会話に応じてくれる10人が必ずいます。その10人全員と面談できれば、1人か2人はお客さまになる可能性があります。『大数の法則(確率論)』により、ある程度の回数を断られると必ずイエスが来ると分かったので、積極的に電話をかけられるようになりました」と述べます。
また、見込客との面談で緊張しないように工夫しました。
「友人に会いに行くのだと考えるようにしました。このシンプルな方法で見込客との心理的距離が縮まります。さらに趣味や仕事、人生について楽しく会話をする流れで、相手から自然に経済的解決について質問される様子をイメージしました」
Fanggaraもこのアプローチを使っています。
「私は断り対応が得意ではないので、それに真っ向からぶつかるのではなく、相手の心に響くようなストーリーや例え話を用いて対応しています」と述べます。
超敏感なアドバイザー
4年間MDRT会員のJiajia Jiも「断り」に大きな恐怖がありました。Jiはただ内向的なだけでなく、1990年代に心理学者のElaine Aronが提唱したHSP(Highly Sensitive Person: 生まれつき非常に感受性が強く、刺激に敏感な気質を持つ人)としての特性を持っています。HSPは単に内気な人と誤解されることも多いのですが、雑誌「Psychology Today」によると、人口の約20%を占め、感受性が強く、痛み、空腹感、光、騒音といった外的・内的刺激への反応が強く、複雑な内面を持つという特徴があります。
「拒絶やフラストレーションを強く感じやすく、自己否定の声に悩まされる」と言います。
見込客の断りは商品に対してであり自分への拒絶ではないと意識的に思い出すようにしました。また、持ち前の共感力と感受性を生かし、特に動画やソーシャル・メディアでのストーリー・テリングを通じて顧客との関係構築に取り組むようにしました。
「このアプローチにより、コンサルタントとしての私のイメージがよりリアルで信頼性のあるものになりました。お客さまとの直接の面談では、私の強みである傾聴、細かい配慮、共感をフルに活用します。これによりお客さまの真のニーズを的確に把握できます」と述べます。
固定観念は存在しますが、ファイナンシャル・アドバイザーに万能な人材は存在しません。内向的であろうと外向的であろうと、感受性の強い人であろうとそうでなかろうと、この仕事にはあらゆるタイプの人が活躍できる余地があります。大切なのは思考を転換し、特性を自分の宝として自分らしくあろうとすることです。